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ステラマリス海事法務事務所

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フランス型雇用政策について ( 第一回:1995年冬のゼネストの思い出 )

海事代理士 望月照之(ステラマリス海事法務事務所)


 私は焦っていた・・。カルト・ブルー(フランス共通のデビットカードで銀行のキャッシュカードとバンドルされている。)が使えるATMは既に無い。生活費は年末を控え心許ないのだが引き出すことすらもはやままならないのだ・・。諦めて、近所のInter MarcheやLeader Price(スーパーマーケット)に食料などを買い出しに行くも、棚の商品が数日前の半分くらいに減っている・・。
 「もうダメだ・・」私は住んでいた街がスイス国境近くのサヴォワ県であったためジュネーヴに出るのは普段なら造作のない距離である。しかしながら、ガソリンもすでにどこでも販売していないし鉄道やバスは数週間前に既に来なくなった・・。国外へ出るのは諦めた。
冬も本番を徐々に迎え、ゼネストにより物も金もそして交通手段も途絶する恐怖はおそらく弱者(老人、障害者、そして私のような外人)にはひとしおである。このじわじわくる感じは、東北や関東の人間であれば東日本大震災のあの時を思い出してもらえればなんとなくイメージできるのではなかろうか。まさにあの不安感そのままなのであった。
 このゼネストの発端は当時、首相であったアラン・ジュペの年金改革法案提出であった。どこの国でも同じことだが、財政のやりくりは困難であり、中でも社会保障費にメスを入れざるをえない事情は当時のフランスも例外ではなかった。ただ、日本と違うのはフランス人は王と王妃を断頭台に据えた誇り高き革命の伝統を持つ国であり、学校教育の現場でも社会契約論の刷り込みは日本とは全く比較にならないほど徹底している。そのため、国民の社会権が侵害されたと感じれば学生であれ労働者であれ路上に出てデモるお国柄なのだ。
 そう、「市民の為にならない国家は存在してはならない。だから路上に出て矯正するのだ!諸君!やるのだ!やるのだ!」。これがフランス流社会契約論の基本。当時、大統領ジャック・シラクや首相アラン・ジュペが所属するRPR(共和国連合)は民主的な普通選挙で勝ち組閣したわけだが、その事実は先述の社会契約論の原則の前には意味を為さない。少なくとも、フランス国民的には・・である。何が民主主義なんだか・・な気分。少なくとも私はフランス流社会契約論を頭では理解しているが、未だ生理的に受け付けない。それは、フランスに来て一年もしないうちに「ン十年に一度規模のゼネスト」に出くわしたという巡り合わせと無関係ではないだろう。皮膚感覚でバリバリに感じたから・・「ゼネストは弱者から苦しめる。強者の権利の実現のために」という側面を。
 このようなゼネストは2006年のド・ヴィルパン内閣による「CPE法案(若者お試し雇用法案)」提出の際が近年では記憶に新しい(この年は東京とイスタンブルを往復する一年でありフランスにはいなかったが、Le Figaro紙や Les echos紙のweb版をチェックしている限りその緊迫度合いは容易に想像できた)。この法案、フランスの若年失業率高い点を是正すべく、企業が雇いやすくするため若者を雇用する場合、「お試し期間」の間なら解雇自由にするというもの。フィットしなければ解雇できるため企業にとっては気軽に雇用することが出来、若年失業率を減らすものと産業界では一定の評価を得ていた。しかしながら、これが大学生のデモを発端にゼネストに発展した。フランス人にとって労働者の権利とは神聖なものであり、その権利、つまり解雇権を濫用されかねない法案は耐え難いということなのである。結局ド・ヴィルパン内閣は同法案を撤回した。
 さて、そういうお国柄でありながら今年、マクロン大統領はフランスの古臭い労働慣行を打破すべく労働法典に手を付けるだけじゃなく社会保障制度も含めた新自由主義的改革を断行した。それも国会審議を経て立法するのではなく、「オルドナンス(政令)」でもって立法するという剛速球をブンブン投げまくって・・。

 それでも、ゼネストは起きなかった。本当に十数年前のフランスを知っている人間からすると「え????」というほどにあっけなく・・。
 これはEUが「弱者連合」の色合いを強め、フランスは財政、経済だけでなく宗教戦争という「内なる敵」との果てしない戦いの当事者となり大きく揺さぶられているからかもしれないし、マクロンが卓越した労組懐柔テクニックを持った説得大魔王だからかもしれない・・。
 いずれにせよ、フランスの雇用政策は大きな転換点を迎えている。これを分析することは日本の雇用政策を考察する上でも大変に有意義ではないだろうか?フランスは30年前には既に外国人労働者問題に直面してきている。また、都市部郊外がゲットー化する問題やイスラム教徒の社会統合の蹉跌などある意味で「日本の未来予想図的」な活きたサンプルといっても過言ではない。ちょっとカジュアルに俯瞰してみたいと思っている。
次回以降は
第二回: 欧州雇用政策の3類型(フランス型、北欧型、オランダ型)
第三回: 大予言☆ オランダ型が世界スタンダードになるぞ!
を予定している。

海事代理士 望月照之(ステラマリス海事法務事務所)





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